エロール・ル・カイン

20世紀の英国を舞台に活動したイラストレーター―エロール・ル・カイン(Errol Le Cain)〔1941年3月5日〜1989年1月3日〕は、その神秘をともなう作風をもって『イメージの魔術師』という異名を携え、児童文学/絵本の世界に数多の彩を送り出した。ひとりの画家として華々しいとは決して言えなかったその生涯。しかしささやかながらもその名を残し、後世に遠く海を越えた日本の漫画家―さくらももこに『憧れのまほうつかい』amazon_a.jpgとしての再評価を受けもしたル・カインの作品は、その画集amazon_a.jpgを含めた19のものが日本語に訳されもしている。

『美女と野獣』
『美女と野獣』

目次

生涯

幼少期 ~東洋から西洋へ~

ヨーロッパ人とアジア人の両親のもとで1941年―シンガポールに生まれたル・カインは、第二次世界大戦にともなう日本の侵攻をきっかけにして、生地のシンガポールをあとにしインドに避難することになった。それから大戦の戦火が落ち着くまでのしばらくの時をインドで過ごし、やがて香港、サイゴン、そして日本などを転々と旅行した。古の帝国の名残を留める建造物群の織り成す街並―東洋的な大地の色はその人生の原風景となり、この時期に受けた神話や伝説からの影響もまた強く、のちの活動におけるその作風に如実に現れたものと言われている。

芸術に関した正式な教育は受けなかったものの、その才能は初期から明らかなものだった。いつしか映画に魅了されたエロールは、11歳のときに友人らとともに初のフィルム―『ジ・エンチャンテッド・マウス(The Enchanted Mouse)』を8ミリカメラで制作。更に15歳のときに、16ミリカメラで『ザ・リトル・ゴートハード(The Little Goatherd)』という映画を製作し、イギリスのある映画流通業者の関心を惹く。そしてその年―1956年に、アニメーション制作の道を追及するためにロンドンに渡るのである。

活動期 ~ささやかな勃興~

英国の地を踏んでからおおよそ10年のときを過ぎた1965年―エロールは、リチャード・ウィリアムズ(Richard Williams)というカナダのアニメーターのスタジオに加入し、以降、『ザ・チャージ・オブ・ザ・ライト・ブリッジ(The Charge of the Light Brigade)』、『ア・ファニー・シング・ハプンド・オン・ザ・ウェイ・トゥ・ザ・フォーラム(A Funny Thing Happened on the Way to the Forum)』、『カジノ・ロワイヤル(Casino Royale)』などといった、広範にして数多のアニメーションのプロジェクトに関わっていった。

『アーサー王の剣』
『アーサー王の剣』

それらリチャード・ウィリアムズとの仕事の中でもひときわ重要と言われているのが、その没後の1990年代に世に送り出された、『ザ・シーフ・アンド・ザ・コブラー(The Thief and the Cobbler)』という名の未完成のアニメーションフィルムである。

イラストレーターとしてのその初の仕事となったのは、1968年―フェイバー・アンド・フェイバー(Faber and Faber)という出版社の制作による『アーサー王の剣』の挿絵だった。1920年代からの歴史を有するイギリスのこの出版社とは長い付き合いとなり、延いてはその死の時まで続いた生涯の契約となる。

『キャベツ姫』でケイト・グリーナウェイ賞(英国図書館情報専門家協会が贈る優れた絵本画家への賞)の最終候補となった1969年にフリーランスになり、アニメーションと絵本の挿絵の仕事―本業―にあわせて、英国放送協会(BBC)の製作現場での仕事も重ねるようになり、1976年の放送となった『雪の女王』(アンデルセン)に始まり、この局の様々な作品に関わった。

『ハイワサのちいさかったころ』
『ハイワサのちいさかったころ』

晩節 ~そして終幕へ~

1975年に発表した『ソーン・ローズ(Thorn Rose)』でふたたびケイト・グリーナウェイ賞の最終候補となり、1984年に発表した『ハイワサのちいさかったころ』でついにこの賞の受賞者となった。

そして1989年の1月―妻と二人の子供を残し、長く患った癌のためにイングランドで死去。享年47。挿絵家としてその生涯に挿絵を手掛けた絵本は総数48にのぼり、没後の後世に今もささやかながらに語り継がれている。

『ハーメルンの笛ふき』
『ハーメルンの笛ふき』

有名作品

幼女と老女と猫 ―『ウィガー(Wigger)』
幼女と老女と猫 ―『ウィガー(Wigger)
  • The Cabbage Princess(邦題『キャベツ姫』) 1969年
  • Sir Orfeo(邦題『サー・オルフェオ』) 1970年
  • The Child in the Bamboo Grove 1971年
  • Cinderella 1972年
  • The King's White Elephant 1973年
  • King Orville and the Bullfrogs 1974年
  • Thorn Rose 1975年
  • The Flying Ship 1975年
  • The Twelve Dancing Princesses(邦題『おどる12人のおひめさま』) 1978年
  • Beauty and The Beast(邦題『美女と野獣』) 1979年
  • The Snow Queen(邦題『雪の女王』) 1979年
  • Mrs Fox's Wedding(邦題『フォックスおくさまのむこえらび』) 1980年
  • Aladdin and the Wonderful Lamp(邦題『アラジンと魔法のランプ』) 1981年
  • Molly Whuppie 1983年
  • Hiawatha's Childhood(邦題『ハイワサのちいさかったころ』) 1984年
  • Growltiger's Last Stand and Other Poems 1986年
  • Christmas 1993 or Santa's Last Ride 1987年
  • The Enchanter's Daughter(邦題『まほうつかいのむすめ』) 1986年
  • Alfi and the Dark 1988年
  • The Pied Piper of Hamelin(邦題『ハーメルンの笛ふき』) 1988年
  • Mr Mistoffelees with Mungojerrie and Rumpelteazer 1990年

資料

WWW

errollecain.com

タニア・コーヴォ(Tania Covo)という英国のイラスト愛好家が発信する、ル・カイン専門のウェブサイト。その作品の多くを見ることができる。