Urban Dictionary
Urban Dictionary(アーバン・ディクショナリー)―"Define Your World"(あなたの世界を定義しよう)をスローガンに据えるこのウェブサイトは、十色の動機で集まってきた利用者たちの持ち寄る十色の定義によって紡ぎ出される、スラング(俗語)を中心に扱う英語のオンライン辞書である。
ある言葉についての『生きた』視点をざっと理解することができるという面での有用性はもちろんのこと、その独特の風土あるいは文化の所以もあり、時に眺めた者に我を忘れるほどの爆笑を与えてしまうという面での強い娯楽性を有してもいる。
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通史
カリフォルニア州立工科大学の学生であったアーロン・ペッカム(Aaron Peckham)が1999年に創設。2005年の末には30万定義を超え、翌2006年には"Urban Dictionary"として書籍化。その翌年にはその第二弾となる"Mo' Urban Dictionary"を出版した。
構造
その単語の用例(例文)を定義(説明)の下に斜体で記すのが通例となっている。
ある単語Aに着目する。とある利用者がこの単語についての定義を行ったとすると、すぐさま次のようなURLのページが生成される。
http://www.urbandictionary.com/define.php?term=A
更に別の利用者が新たなAを定義する。するとこのページにその利用者の行った定義が新たに追加される。
さて、これで『A』についての2つの定義が生まれたことになる。ここで『A』という1つのページに共存するこの2つの『A』の定義を順序付けるのが投票システムである。
ある単語のページを見た閲覧者は、その各々の本文の右上のあたりに、
- [親指を突き上げたアイコン] x up, y down [親指を突き下げたアイコン]
という部分を目にすることになる。すなわち名も無き閲覧者によって各方に投票された回数がこのxとyにあたり、x-yの値の大きさの順によって掲載順位が決まるのである。
例として先の単語Aを用いると、最初に行われた定義が『[親指を突き上げたアイコン] 8 up, 10 down [親指を突き下げたアイコン]』で、次に行われた定義が『[親指を突き上げたアイコン] 1 up, 0 down [親指を突き下げたアイコン]』であったならば、8-10=-2 < 1-0=1 という結果により、後者のほうが上位に掲載されることになる。
定義が1つしか存在しない場合は、この投票システムに左右されることなく、その定義のみが表示される。
以上のような操作―すなわち定義やそれらに対する投票は素のままでも行うことができるが、サインアップをすることによって、自らの行った定義に一個の利用者としての署名を付すことや、自らの行った定義の数々を俯瞰することなどが可能となる。
様相
公式に『スラングの辞書』を謳う通り、定義済みのスラングの数はまさに膨大である。
有名なスラングについてはそのおおよそ全てが網羅されていると見てよいだろう。加えて、インターネットスラングはもちろんのこと、そのなかでも一部のコミュニティでしか使われないものや、果ては異国のスラングに至るまでがある。
更にはその幅はスラングに留まらない。一般名詞から国名から人名に至るまでと、制限と呼べるものがほとんど無きに等しいのだ。敢えてそれらに共通点を見出すとすれば、あくまでスラングとして―いわゆるユーモアを交えて―定義されている(ことが多い)というところか。
例としてパリス・ヒルトンのページ[1]を参照すると、2008年1月19日の時点で最も上にある定義(すなわち最も評価の高い定義)は次のようなものである。
- "Like Kansas, flat, white and easy to enter"
- ―『カンザス(州)のようなものだ。平たくて(≒気の抜けていて)、白くて(≒白人で)、入るのが容易くて。』
一方で、真面目に論じている定義もある。例として浜崎あゆみのページ[2]を参照すると、2008年1月19日の時点で最も上にある定義は次のような説明から始まる。
- "An extremely popular female J-pop singer in Japan. She writes all her own lyrics, they aren't too brilliant, but very poignant(unlike what you would hear on mainstream american radio). She has a very high-pitched voice which to some people, may be pleasant and to some, annoying. She composes some of her own songs under the name CREA."...
- ―『極めて高い人気を持つ日本の女性J-pop歌手。彼女は全ての歌詞を自らで書いている。それらは全てが素晴らしい出来ってわけじゃないが、ただ言えるのはとにかく痛ましい雰囲気を秘めてるってことだ(そうだ、俺らがラジオで聴くアメリカのやつとは違ってね)。彼女の声は非常に高調なもので、ある人にとっては心地よいだろうし、ある人にとってはうるさいだろう。彼女はCREAという名で幾つかの楽曲を作曲してもいる。』...
更に他方では、完全に罵倒に終始しているだけのものや、既成の言葉に別の側面から新たな定義を加えているもの、そもそもそれまでには存在しなかった(であろう)言葉を定義して新たに創出しているもの、などなど、もはや何でもありのようでもある。
いずれにしても、斯様―そうして今この時にもそこに刻々と新たな『世界』が生まれている。
資料
Urban Dictionary - English Wikipedia