Sniper

Sniper(スナイパー)―3人のラッパーたちが構成するこのフランスのヒップホップ集団は、この国の並居るラッパーたちのうちでも最悪の部類の過激さを誇る者達として各方面に名高く、ときに悪名高い。

Sniper―その肖像、左から、ブラッコ、アケト、エル・チュニジアーノ。
Sniper―その肖像、左から、ブラッコ、アケト、エル・チュニジアーノ。

移民の血を引く―すなわち―疎外された存在としてこの共和国の社会を見てきた―ラッパーたちが織り成すスナイパーのその表現上の世界観は、その剥き出しの攻撃性を帯びたリリックの過激な様相をして、社会問題として捉えられるほどの論争をしばしば引き起こす。

目次

通史

チュニジア系のエル・チュニジアーノ(El Tunisiano/MC)、アルジェリア系のアケト(Aketo/MC)、レユニオン系のブラッコ(Blacko/MC)、アルジェリア系のブゥジュ(Boudj/DJ)―4人は、そのいずれもがバンリュー(Banlieue)と呼ばれる地帯―公営住宅を居とする多くの移民達のひしめく貧困地域―に出自を持った移民たちの息子として、それぞれヴァル・ドワーズ県(Val-d'Oise)とセーヌ=サン=ドニ県(Seine-Saint-Denis)に育った。

のちのスナイパーはこの4人によって、西暦1997年―『Personnalité Suspecte』という名で結成された。これを略して『Persni』、更にこれを分解のうえ並び替えて『Sniper』とする(Persni → Per sni → sni per → Sniper)

デビューアルバムとなるLP―"Du rire aux larmes"を2001年に発表、2003年に2枚目のLP―"Gravé dans la roche"を発表し、やがてDJのBoudjが抜けて3人となり、2006年に3枚目のLPとなる"Trait pour trait"を発表した。

様相

その雰囲気は明らかにギャングスタ・ラップ(Gangsta rap)である。

楽曲には政治を題材にしたものが多く、例えば2001年のSP―"La France"では『フランス』を『あばずれ(garce)』と扱き下ろし、2003年のSP―"Jeteur de pierres"ではいわゆるパレスチナ問題を取り上げ、『唾棄すべき抑圧者ども』―としてのイスラエルを滅多切りにするのである。

当時の内務大臣―のちの大統領たるニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)―は、前者―"La France"―を『暴力的』で『人種憎悪的』で『あまりに口汚い』と非難。後者―"Jeteur de pierres"―に対しては『ユダヤ人への憎悪を煽り立てている』と非難―ちなみにこの政治家はユダヤ人の血を引いている―。後者の批判に対して『俺らはムスリム(イスラム教徒)として言ってんじゃねえんだ。人間として言ってんだ。』と返した。批判者たちのこうした認識については、『明らかにロクに聴いてすらいない』との分析もある[1]

こうした批判にさらされてきたのはスナイパーだけではない。『暴動を煽った』として実刑を受けたNTMや、この国―フランスをスナイパーに同じく『あばずれ』になぞらえたリシャール・マケーラ(Richard Makela)など、数多のラッパーたちが政治側からの集団リンチとも言えよう攻撃を受けている[2][3]。ラップ・フランセ(Rap français―『フランスのラップ』の意)の歴史のなかで、そのリリックが検閲に引っかかって指弾された最初の例が『何を待ってる?(Qu'est ce qu'on attend ?)』と題した楽曲がその原因となったNTMであったが、その次―すなわち検閲に引っかかった2番目の例がスナイパーだった。このときにスナイパーは、時の首相―ドミニック・ドヴィルパン(Dominique de Villepin)によって訴追されている。

こうしたフランスのヒップホップを先導する者たちは、スナイパーの面々と同じく、更にはBushidoAzad(アザド)に代表される隣国ドイツのラッパーたちに同じく、その多くがアラブ諸国やアフリカからの移民の血を引く者たちなのだ。

そこには―今まさに始まった―何らかの大きな『うねり』の灯火の揺らめきのようなものが垣間見られはしまいか。

・・・そうした背景を踏まえて見れば―いやそうした背景を抜きにしてもおそらく―"Du rire aux larmes"は不気味かつ妙な中毒性がある。そしてチュニジアーノがひとりで叫ぶ"La France itinéraire d'une polémique"はあまりに悲しい。これらのトラックに共通して漂う鬱滅とした空気は一体なにか。...

La France est une garce et on s'est fait trahir
 ―フランスはあばずれだ 俺ら裏切られてきた
Le système, voilà ce qui nous pousse à les haïr
 ―社会は俺らに奴らを憎ます
La haine, c'est ce qui rend nos propos vulgaires
 ―その憎しみが俺らの言葉を下品にする
On nique la France sous une tendance de musique populaire
 ―俺ら音楽でフランスをやっちまうんだ
On est d'accord et on se moque des répressions
 ―いいかみんな 弾圧なんて気にすんな
On se fout de la République et de la liberté d'expression
 ―共和国だの表現の自由だのクソ食らえだ
Faudrait changer les lois et pouvoir voir
 ―法を変えてやるんだ そんで
Bientôt à l'Elysée des arabes et des noirs au pouvoir
 ―見届けるんだ アラブ人と黒人がエリゼ宮で天下を取るのを

"La France"

資料

リンク

Sniper - Site officiel(公式)